日本を代表するある企業の元CEOの方にお会いした際に、「日本の社長は、もっとスピーチを習うべき」という話になりました。その頃、まだ日本では話し方教室でスピーチを習う社長は少なく、「人格があれば話し方はどうでもよい」という考え方が主流でした。日本でスピーチ教育は定着するのだろうか?と私自身、自問自答している時期でもありました。
そんな私の葛藤を話すと、こんな言葉をかけて下さいました。
「社長はたまごの中身、会社はたまごの殻」
社長は、会社があるから社長でいられる。社長は「●●社の社長」であって、個人の「●●さん」であってはいけないという事です。社長でいる限り、様々な「話す責任」があります。個人的な得手不得手よりも先に、話す勇気がない人に、リーダーが務まるはずはない。そんな思いを強くした出来事でした。
真意にアクセスする力
私が、企業の社長など、エグゼクティヴ層の方々にスピーチをトレーニングする時にポイントにするのが、「真意とは何か?」を意識して話してもらう事です。自分の真意というのは、分かっているつもりで、意外とわかっていないものです。スピーチとなると、そこに前置きや建前なども入ってきますので、さらに自分の真意をストレートに伝える事が難しくなります。では、真意とは何なのでしょうか?例えば、「好きな歴史上の人物は誰?」と聞かれた時に、2つも3つも答えないで、たった1つ、唯一の理由が、私の言う「真意」です。
話し方教室の受講者の方の中にこんな社長がいました。「好きな歴史上の人物は吉田松陰先生です。その理由は、彼が歴史上、多くの知識人に影響を与えたからです」一見すると、納得のいくスピーチですが、私はこう問いました。「多くの知識人に影響を与えたから、好きなのですか?」すると彼は、「ちょっと違う気がしてきました」と言って考え込んでしまいました。真意に、瞬時にアクセスすることは、とても難しいことです。そして、それを言語化することはさらに難しいです。でも、この感覚を養わなければ、自分の言いたいこと、相手に必要な情報を的確に伝えることはできません。
エグゼクティブスピーチトレーナー 野村絵理奈
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